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ビオレタ・ルナが語る NK603 : Action for Performer and e-Maíz

2016年12月9日(金)に上智大学で開催された講演会「トウモロコシの夢と悪夢~身体・アート・社会」のなかでビオレタ・ルナ氏がおこなった作品解説、および別の折に新宿の「カフェ・ラバンデリア」におけるトークセッションでの発言の概要です。       

(スペイン語の文字起こし版はこちら

メキシコ人にとってのトウモロコシ

「メキシコ人にとってトウモロコシの発見は人類にとっての火の発見と同様の意味がある  オクタビオ・パス

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メキシコの言い伝え

マヤの古文書『ポポル・ヴフ』には、人はトウモロコシから創られたとあります。神々は人間をつくるためにいろいろな方法を試してみましたが、どれもうまくいきませんでした。最後にたどりついたのがトウモロコシでした。「黄色いトウモロコシと白いトウモロコシから肉が作られ、トウモロコシの粉を練って両腕と両脚が作られた。私たちの先祖の肉にはトウモロコシだけが取り込まれた」とあります。すなわち、メキシコ人にとってもラテンアメリカの人々にとってもトウモロコシは単なる食糧ではなく、自らの根源を象徴するものです。

ディエゴ・リベラの壁画『偉大なるテノチティトゥラン』にはトウモロコシの種まきの様子が描き込まれています。トウモロコシは甘い料理にも辛い料理にも使われ、その種類は地方によって多種多様です。また、トウモロコシには女神と男神があり、女神はチコメコアトルと呼ばれていました。

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メキシコでのトウモロコシ栽培の歴史

メキシコ人は約1万年前にテオシントと呼ばれる野生の植物の栽培を始め、長い時間をかけて改良を加えてきました。その結果、60種のトウモロコシとその変種を作り上げ、トウモロコシに関する遺伝工学を発展させてきたのです。

メキシコには「ミルパを作る」という表現があります。土地を選んで種を蒔く生産プロセスを指しますが、共同体を形成するということや、皆が一緒に種をまき、土地を耕すことも意味しています。人々が大地に触れ、その実りを共有することの比喩でもあります。ミルパでは複数の作物を同時に栽培します。トウモロコシを単体で育てるのではなく、カボチャ、フリホール豆、チリなどと同じ畑で育てるのです。

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トウモロコシが象徴するもの

トウモロコシの色は種類によって異なり、色にはそれぞれに意味があります。黒と暗紫色のトウモロコシは心臓を、白いトウモロコシは骨を、赤いトウモロコシは血を示し、黄色は肉と皮膚を表します。また、こうした色は宇宙観をも示します。赤は太陽が生まれる東であり、黒は太陽が隠れる西を指す。水が湧く南は黄色で、空気が生まれる北は白で表されるのです。

この作品を制作したきっかけ

Violeta Luna NK603: Action for Performer & e-Maiz.

遺伝子組替作物をめぐるメキシコの社会経済での出来事

私は2000年から自分のアクティヴィズムにトウモロコシのテーマを取り入れています。イグナシオ・チャペーラ(バークレー大学教授、メキシコ人)が、重要生産地であるオアハカ州のトウモロコシが汚染されていることを突き止めました。アメリカ合衆国やそのほかの国で栽培されている安価な品種を植えた農民がいたため、その花粉がメキシコの固有種を侵し始めたのです。

 

メキシコ政府は、20年ほど前からモンサントを始めとする種子産業の大企業に対して132品種の遺伝子組み換え試験プログラムの実施を許可してきました。このプログラムの50%がトウモロコシの遺伝子組み換えに関するものであり、これに対して科学者、環境保護団体、研究者、民間団体が抗議の声を上げてきました。

 

私は遺伝子組み換えトウモロコシに反対する活動に加わるようになりました。

 

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農民たちの抵抗運動

 

NK系統の遺伝子組み換えトウモロコシの品種は、ヨーロッパでは健康被害が出るとして禁止されています。その一方でバイオ化学メーカーは、不作や凶作の被害を受けることがない遺伝子組み換え品種によって人類は食糧不足を免れることができると主張します。しかし実際には、経済的な利潤追求が彼らの意図なのです。この状況は、先祖伝来の知識を破壊し、〈第一世界〉と〈第三世界〉との間に不平等を生み出します。北の第一世界では遺伝子組み換えトウモロコシを作り出し、私たち南の人間は土地固有の品種を栽培することもできないままにアメリカ合衆国からやって来る遺伝子組み換えトウモロコシを植え、メキシコの農地は荒廃していきます。この世界にトウモロコシを生み出したその場所で固有種が侵されていくのです。

こうした外国資本の企業は遺伝子組み換え作物を持ち込むだけでなく、天然ガスや石油の採掘ではフラッキング(水圧破砕法)までをも導入しています。フラッキングとは、地面を深く掘削し、石油などを掘り出すためのパイプを埋め込む技法ですが、そのパイプは地下水源地帯を通り、山を通り、神聖な場所を通り抜け、環境を汚染し続けています。

作品のメタファー

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先住民女性

パフォーマンスで私は身体を紫色にボディペイントした先住民女性になります。cultura(文化)やculto(儀礼)という言葉は、栽培(cultivo)・農業(agricultura)・耕作する(cultivar)という言葉に関連しているが、これは食糧に関係するだけでなく宗教的、文化的な意味も持ちます。メキシコからアメリカへ多くの農民が移住しましたが、女性たちは固有種を護る役割を担っただけでなく、記憶を護る存在でもありました。すなわち、古から伝えられてきた知恵を次世代へ伝える役割を担ったのです。それゆえ、私のパフォーマンスではこうした先住民女性のアイデンティティを表現したいと考えました。

Violeta Luna NK603: Action for Performer & e-Maiz.

サパティスモ

メキシコにとって特筆すべき出来事にNAFTA締結(1994年)があります。サパティスタは、この自由貿易協定はメキシコの農民(その多くは先住民)を不利益な状況に追い込むものだとして蜂起しました。新自由主義の発想はメキシコでは機能しないと考えたのです。結果としてメキシコ政府は先住民の土地を奪い、彼らは消費社会に組み込まれることになりました。メキシコでは、グローバリゼーションを意図するプロジェクトは失敗に終わったのです。人が行方不明になり、資源が奪われ、土地を追われた農民が強制移住を強いられるといったさまざまな暴力が出現しました。そうした中で最も悪質だったのは、遺伝子組み換え技術の導入です。遺伝子組み換え植物の栽培では農地は汚染されていきました。また、農民たちは代々受け継いできた自分たちの種子の使用を禁じられ、企業が許可を与えた種子しか使えなくなりました。

 

だからこそ、私はパフォーマンスでサパティスタのシンボルを用いるのです。最後の場面で身に着ける赤いバンダナはサパティスモの象徴で、企業による略奪を食い止める先住民の戦いを表しています。

Violeta Luna NK603: Action for Performer & e-Maiz.

注射を打つ、拷問器具を使ったパフォーマンスについて

 

遺伝子組み換えとは、食物に対して人為的な操作や介入がなされることであり、この恐ろしさを訴えるために挑発的なイメージを用いました。遺伝子組み換え作物を作ることは、それを口にする人たちの身体や人間性に対する冒涜を意味することを示したかったからです。

私にとってのパフォーマンス・アート

Violeta Luna NK603: Action for Performer & e-Maiz.

私がパフォーマンスする際に意識していること

 

パブリック・スペースでのパフォーマンスは、様々な規制や枠組みの中で行うものですが、規制があればこそ逆に可能性は広がります。

パフォーマンスでは血や肉体を露骨に提示することがあります。これらがタブー視されている社会では、パフォーマンスの意図が正しく認識されるように構築していく必要があります。パフォーマンス空間はリスキーな空間なので、そこでのアクションは慎重に準備しなければなりません。その土地柄や文化を考慮するのはむろんのこと、オーディエンスの反響を踏まえ彼らとのインタラクティヴィティをどう成立させるかを考える必要もあります。

Violeta Luna NK603: Action for Performer & e-Maiz.

パフォーマンス・アートの社会的意義

 

パフォーマンスでは社会的な課題が取り上げられますが、そこで語られるのはアーティスト自身の経験や個人史です。自分のバイオグラフィーとアートを切り離すことはできません。個人(individualidad)と共同体(comunidad)が相互に関連しているからこそ(メキシコ人としてアメリカへ渡った)私は不法移民や先住民の代弁者にもなれるのです。

Violeta Luna NK603: Action for Performer & e-Maiz.

政治的アクション、そして人々の代弁者であること

 

私のパフォーマンスでは、私の身体が「場」となり、「創造のためのテリトリー」になります。ここに私はメタファーを書き込み、自分が主体でありながらその一方で作品の客体にもなります。私の身体は表現手段であると同時に政治的手段にもなります。

パフォーマンスの空間と、そこにある女性の身体は、新しい世界観や人間観の創造を可能にします。私たちは自由な空間の中で身体を通して自分の人生を語ることができるのです。これがステレオタイプ化されたアイデンティティへの挑戦にもなっていきます。

アクションとしてのアートは私の抵抗のドラマツルギーです。

スペイン語の文字起こし版はこちら

ビオレタ・ルナ 略歴

 

俳優、パフォーマンス・アーティスト、社会活動家。

メキシコ・シティー生まれ。メキシコ国立自治大学演劇センターCUTほかで俳優術を学び、メキシコの著名な演出家の舞台に多数出演。その後、メキシコのコミュニティー演劇活動に参加し、パフォーマンス・アートによる社会運動を展開してきた。自らの身体を"テリトリー"として用いるアートで社会や政治に対する問題提起や疑義申し立てを行なっている。

www.violetaluna.com

Photo Credits(表示順)

メキシコの言い伝え:Códice Borgia "Chicomecóatl", Wiki commons

メキシコでのトウモロコシ栽培の歴史:Diego Livera "La gran Tenochititlán", Wiki commons

​トウモロコシが象徴するもの:著作権フリー

遺伝子組替作物をめぐるメキシコの社会経済での出来事:Helen Varley Jamieson

農民たちの抗議運動:出典不明

​先住民女性:出典不明

注射を打つ、拷問器具を使ったパフォーマンスについて:​Miyako Fujinami

私がパフォーマンスする際に意識していること​Miyako Fujinami

パフォーマンス・アートの社会的意義​Miyako Fujinami

政治的アクション、そして人々の代弁者であること​Juan Ramón Pérez

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